アイドルの活動期間の男女差に対する私見 〜25歳定年説〜


よくネット上では、30代を超える女性アイドルがほぼいないこと男性アイドルは40代以降でも多数現役で存在していることとの非対称性が取り上げられ、女性アイドルと女性の年齢について様々な議論がなされている。


「30代の女性アイドルがいてもいいじゃないか」

「結婚しても、おじさんの年齢でもアイドルを続けている男性がいるのに女性ではほぼいないのはおかしい」


こう言った意見が散見される。
しかしながら、その中で実際にアイドルヲタクを名乗っている人はほぼ見たことがない。

私は、こういう人を見かけると「じゃあ、あなたが応援すればいいじゃん」と思ってしまうのだ。
それは、◯歳を超える女性はもういらないだとか、若い子の方が好きだとかそんな安易な理由ではない。
これは絶対に勘違いされたくないので繰り返し言うかもしれないが、私はレイシストでもミソジニストを名乗るつもりはないしなりたくもない。
アイドルをずっと見ている身として、応援しているヲタクとして感じてしまう、感じざるを得ないそんな一種の違和感が理由だ。





私は、女性アイドルも男性アイドルもいわゆるメジャーアイドルを応援しているヲタクである。
女性アイドルが好きになったきっかけである”推し“は、20歳でグループが無期限の活動停止、それに合わせてアイドルを卒業。現在は結婚をし、子供を育てている母親である。
一方で、男性アイドルが好きになったきっかけの“担当”は、現在30代で未婚。アイドルを続けている。



本当は、もっと長くアイドルをやって欲しかった。会いに行きたかった。歌い続けて欲しかった。

今でさえ、ずっとずっとその気持ちが心の中にあり、ふとしたときに思い出してしまう。

でも、それと同時に彼女のアイドルとしてのラストライブでのコメントなどで言っていたある言葉が思い出される。

楽しいことも嬉しい事もいっぱいあったけど、辛い事の方が多かったです。


今まで、キラキラ輝く彼女たちを見て憧れていた私にとって、アイドルという職業は、キツく辛い仕事なんだと気付かされるかなりショッキングな一文だった。

(これだけ読むとかなり酷いことをヲタクに言い放ったように伝わってしまいかねないので、彼女の名誉のために言うが、彼女は、その後に

これが1人だったらとっくに辞めていたと思います。 家族・メンバー・ファンのみなさん・スタッフさん・友達。
たくさんの方が支えてくれたからここまでやってこれたんだなっと改めて実感しました。
みなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
本当に本当にありがとうございました 。

と綴り、周囲の人への感謝を述べていた。)



私は、ヲタクとしてこの言葉で納得したと言っても過言ではない。小学生からアイドルを続けてきた彼女に向けて「今まで大変だったんだね。ありがとう。お疲れ様でした」と言う他ないのだ。
そこから私が思ったことはこうだ。



女性アイドルは「大人」には難しい職業なのではないか。



それは、辞めろということではない。アイドル本人が辛くなってしまうのではないかということである。


それにはいくつか理由がある。

第一に、女性アイドルの殆どは加入と卒業を繰り返すグループが多いということが挙げられる。

これは、逆説的にだが、加入が基本的にはないCDデビュー済み男性アイドル(ジャニーズやBOYS AND MEN、スターダスト系など)とわずかだが女性アイドル(ももクロ、初期のperfumeなど)は比較的長くグループ自体が継続しており、メンバーもそれに伴い長く活動している。


特に新メンバーの加入というものは、メンバーの心情において様々な変化があることが容易に想像できる。

性格が合わない子がいる・自分より後輩の活躍・・・etc

なにより、自分に置き換えてみると一番辛いことがある。
物事を長くやっていると、人間はそれに慣れが生じ、いい意味でも悪い意味でも力を抜いていく場面が多くなる。それがいい方に向かう場合もあるが、同じグループに若く経験がないが故に全てのことにガムシャラに行動する子が新しく加入したとき、そんな子と「私」を比べて挫けてしまうことだ。


一旦挫けてしまった人に、私たちが続けてほしいと願うことはエゴなのではないか。そう思ってしまった私は、もう好きなアイドルに自分の思いをぶつけることはできない。

大人になった自分と、まだ子どもな新メンバーを見て一緒に活動して、なにも感じずに続けられるだろうか。
悪い感情ではないにせよ、「大人」なると色々なことに気づいうことが多くなるが、その幼い少女を羨ましく、そして愛おしく思うようになるのではないか。その少女の成長を見守りたくなってしまうのではないか。それはもう、本来の彼女がアイドルをする意義を見失ってしまっている状態なのではないか。


そして、地元の同級生は結婚出産なども経験する人もいるだろう。職業柄、熱愛報道は無い方が仕事は上手くいくが、そろそろ恋愛をしたいと思う人もいるのでは無いか。アイドルという職業に誇りを持っている人こそその気持ちは募っていくのであろう。



また、一方で卒業と加入を繰り返すという性質上、グループの新陳代謝を促すために卒業せざるを得なくなってしまったアイドルもいないわけではないと思う。

しかしながら、CDが売れなくなったりグループアイドルが主流になったりした平成からアイドルになった人たちのなかでソロデビューをし、アイドルのまま成功して現在まで現役の人はいないのだ。
橋本環奈はロコドルから奇跡的にメジャーアイドルになることを遂げ、ソロでCDも出してはいるが、やはり今の地位まで上り詰めたのは女優業への転身が大きいものである。また、真野恵里菜もそうだといえるだろう。
また、元AKBとして飲食店やファッションブランドなどを立ち上げ、事業に成功しているタレントは数多くメディアに取り上げられている。



そこで、導き出されることは、別の職業に転身するには年齢が若い方がたくさんの挑戦ができるということである。


実際、女優業やモデル業など様々な芸能関係の職業は若いうちの活躍の存在が大きい。現在も活躍している大女優は10代のころには数々の出演作を持っている人が多いように感じるし、一般的な職業に置き換えても若いうちに様々な失敗をして成長していくのが一番効率の良い働き方だと思っている。
また、モデル業は特に年齢が重視され、年齢が上になればなるほど活躍の幅は狭まる。
そして、一般人に戻るという選択もまた、容易であろう。
古くは山口百恵から始まり、ハロプロでは亀井絵里前田憂佳鈴木香音嗣永桃子・・など結婚を理由にしたものから学業専念、別の職に就くということを目標に掲げ芸能界を引退している。


この別の界隈での活動を誘導するのは本人の人脈もあるだろうが、事務所の力も大きいであろう。アイドルという職業から離れ、別の仕事を始めるにあたって事務所がどれくらいその子をタレントとして売り込めるかというところが重要である。その売り込みも若い方が有利に働くのではないかと考えている。最近バラエティ番組などで活躍している岡田結実藤田ニコル、ドラマなどで活躍している広瀬すず浜辺美波など総じて10代から20前半の女性が多い。
逆にそれ以上の年齢のタレントはすでに20代のうちから活躍している人が多いように思う。
例えば、第一希望として使いたいタレントがいてもスケジュールの都合などでそのタレントが出演できないときなどには、そのタレントに近いタレントが代わりに出演する。そのタレントに近いことが第一条件なのである。だとしたら年齢が近いだけで事務所の売り込み次第でチャンスが巡ってくる可能性は大いにある。


それに加えて、ネットやSNSなどが発達した現在では一人の人間に世間の注目が集中することは考えにくい。そんな中で台頭していくには、若者からの支持、共感を得ることが重要なのである。つまり、情報化社会の中で自分をお金を払わずに宣伝してくれるファンを持つことが非常に大切であるということだ。それには、やはり年齢がある程度若い方が支持層へのチャンネルが合わせやすいであろう。たくさんの支持が数字として表せられる世の中であるがゆえに、売り込みという点でそこは外せない。



アイドルを早くに辞めることは、全てマイナスなことではなく、その人にとって最善の道を進めるきっかけになり得るのだと思う。


そういった理由から、私は若くして女性アイドルをやめることを肯定したい。




第二に、男女のアイドルのファン層の違いも関係していると感じている。

これは、統計などではなく、現場に行った時の体感であるが、男性アイドル(特にジャニーズ)は年齢が10代半ばのグループであればファン層は比較的女子高生などが多い印象を受け、30代半ばに差し掛かればそれに比例して年齢が高いファンが増える印象だ。
Jr.ファン層は幅広いものがあるが、大多数は担当がデビューしたらそのグループに落ち着く人が多いように思う。

逆に、女性アイドルでは幼ければ幼いほど年齢が高いファンがつく印象がある。ハロプロ研修生モーニング娘。'19のファン層は確かに被っているところはあれど、大多数のファンは全く別の層である。また、研修生ヲタと呼ばれる層は推しがデビューしたら別の研修生を応援する傾向にある。


そこから導き出されるのは、ファンの流動性である。


男性アイドルは、基本的にはデビュー後の若手の時期に中学生や高校生のファンがつく。そういったファンは大人になってからも応援しているパターン(または嫌いにはならずに成長する)が多い。なぜならば思春期に自分の好きだった人というのはいつまでも美化して見えるものだし、好きでありたいと思ってしまう傾向にあるからだと考えている。
そういったファンは10年先もその人らを応援するし、老けていったってなんだって構わないのである。長らく活動を追っている上で結婚するヲタクも増えていくので、アイドル自身が結婚したとしても(ファンの数が減ることは当然予想されるが)変わらず応援できる層がいるのである。


一方で、女性アイドルは、最初はその事務所や地域のアイドルヲタクの人たちがファンとしてつくことが多いであろう。そういった女性アイドルヲタクという層はかなり流動的であり、自分の空いてる日に現場があるグループのライブを見に行くなんてことはザラである。
そこで、女性アイドルにはアイドルを今まで見ていなかった層の顧客という新たなファン層を獲得しなければ、固定されたファンはなかなかつかないだろう。
この「今までアイドルを見ていなかった層」に刺さったアイドルといえば、乃木坂46やBABYMETALなどが思い浮かぶ。いずれも新規の顧客を獲得し、”そのグループのファンを辞める時がアイドルヲタクを辞めるとき“なファンが多い印象である。しかしながら、なかなかそのようなグループはそう多くはないし、そういった層が現場いるアイドルヲタクと同じくらいお金を落とすようになるまでには時間がかかるであろう。

また、グループのファンがたくさんいるグループも多く、加入が発表された時点でもうファンと名乗る人が出てくることもあるが、それは同じグループ内でファンが推し変・推し増ししているだけなので、ファンの数が増えたとは言えない。
固定されたファン層がつきにくいので、新しいもの・よりファン自身の好みに近いものにどんどんファンは流れていってしまう。
昔から好きだったメンバーを律儀に応援しているファンもいることにはいるが、一人当たりの数としてはかなり少ないといっても過言では無いであろう。


したがって、長く年齢を重ねても応援し続ける傾向がある男性アイドルファンと比較的に様々なグループへ流れる傾向がある女性アイドルファンとの差は、どちらが良い悪いはさておき、そのアイドルの活動期間にモロに影響が出ることは間違い無いのである。







アイドルは活動期間が長ければ良いものではない。

でも、私はこれから何度ももっと続けて欲しかったとアイドルを辞めた彼女たちに思い続けることになるだろう。もしかしたら、自分のペースで仕事をしてくれていたらそんなに辛くならなかったのかもしれないと思ったこともある。

少女時代をアイドルとして生きたことなんてないから私にはわからない葛藤もあっただろうし、想像もつかないような辛いことも経験したかもしれない。
その中でも、ステージの上で笑顔で歌って踊る彼女たちに夢と希望を感じてしまう。


アイドルがアイドルでいられる期間は短いかもしれない。
そんな儚さとともに自分でやめる時を決めた彼女たちを美しいと思うのだ。


そして、長く活動を続けてくれるアイドルには圧倒的な感謝を。いつまでもアイドルでいようとする姿もまた美しいのである。